インタビュー

市場規模は国内113兆円。高齢化、低生産性など課題山積のアグリビジネスこそ、イノベーションで大化けする

特別記事

一般社団法人 アグリフューチャージャパン

AgriFuture Japan

国内においてはさまざまな市場の成熟化が指摘されるが、食や農業の周辺産業(アグリビジネス)は新規事業やコラボレーションなど、大きなビジネスチャンスがあるといわれる。人手不足や高齢化、生産性の低さなどの課題が山積しているが故に、イノベーションで大化けする可能性があるからだ。
2024年4月に開講する一般社団法人アグリフューチャージャパン(AFJ)が運営する「AFJ日本農業経営大学校 イノベーター養成アカデミー」の主任教授の三村昌裕氏と、アグリテックのスタートアップの株式会社Cultivera(カルティベラ)で代表を務める豊永翔平氏が語り合った。

日本の農業の労働生産性は米国の40分の1

——VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代とも呼ばれています。
国内のさまざまな市場が縮小傾向にある中で、アグリビジネスを拡大するためにはどのような取り組みが求められますか。

国内に目を向けると、122万人にまで減少した農業生産の担い手不足や、
平均年齢68歳という生産者の高齢化、食料自給率は38%とOECD加盟国においても低い水準となっています。
特に労働生産性においては、米国の40分の1という評価もあり、大きな課題です。

豊永 私たちカルティベラは、沖縄に本社を置くアグリテック(農業技術)のスタートアップです。
技術の実装の場として、2017年三重県多気町に農業生産法人ポモナファームを設立し、
トマトをはじめマイクロリーフやとうがらしなどを栽培しています。

私たちが今チャレンジしているのが、野菜を湿度で育てる「Moisculture(モイスカルチャー)」という特許技術です。
特殊な繊維層の人工培地に水分を染み込ませ、そこから気化させた水分で野菜を育てます。
繊維層は5ミリメートルほどの厚さですが、自然界の土の10〜15センチメートル分を再現することが可能です。

このため、世界中どこでも場所を選ばずに野菜を育てることができます。
繊維層の中で湿気中根という根を培養すると水の吸収効率が高まり、
必要な水の量を従来の栽培法の10分の1程度に抑えることができます。
また農業排水も出ません。水不足、土不足、さらには農業による環境汚染などの課題の解決にもつながります。

三村 まさに大きなイノベーションを実現されていますね。
豊永さんが起業された経緯はどのあたりにあったのでしょうか。

豊永 大学では考古学を専攻し、カンボジアの文化財保護の研究などに携わっていました。
ところが、遺跡が観光地化して観光客が増えると遺跡が劣化してしまいます。
また周囲で農業が発達すると地下水脈が下がって地盤沈下が起き、遺跡が傾いてしまうこともあります。

農業は、世界中の淡水の70%を使用しているのが現状です。
そういったことを目の当たりにしたことから、「環境負荷の低減」が、自分の中で大きなテーマになっていったのです。

三村 私も農業とは違う異業種の出身で、もともと制御工学と都市計画をやっていました。
どちらも、ある未来を予測し、それが実現されるにはどうするかを考えます。

一般的に多くのビジネスが、課題設定の難しさに直面しますが、アグリビジネスの課題設定においては、
テーマがあふれているといえます。豊永さんは「環境負荷の低減」に着眼されて、
どんな技術が必要なのかバックキャストしてご自身の技術開発をされたのだと思います。

イノベーターは農業生産の川上から川下までのバリューチェーン全体をアグリビジネスとして捉える必要がありますね。
そういった観点で見ると、アグリビジネスの市場規模は国内だけで113兆円ともいわれ、大きな可能性があります。

豊永 イノベーションを起こすためには、どのような付加価値を提供できるかが大切だと思います。
私たちが生産しているトマトは決して高額なものではありません。
地域の学校の給食に使っていただけるくらいの価格設定にしています。
では何が私たちの付加価値かというと、私たちは「作型(さくがた)戦略」と呼んでいるのですが、
他の方々が作れない時期にトマトを生産できること。通年栽培を可能とする技術の構築こそがビジネスにつながっています。

また地球温暖化により、夏に野菜を育てるのは難しくなっていますが、
私たちのMoiscultureの技術なら植物は35度にも耐えることができます。
野菜の旬は大切にしたいのですが、地球温暖化などの気候変動対応に焦点を合わせると、そこでも付加価値となるでしょう。

アグリビジネスの参入のハードルを下げることが必要

——アグリビジネスを始めたいと考える企業や人はいても、なかなか参入のハードルは高いように思われます。
実際のところはどうですか。

一方で、農業大国のオランダなどではこれらの暗黙知を形式知化し、さらにシステム化が進んでいます。
日本においても、テクノロジーの力でこれまで10年かかっていたものを2年に短縮するといった取り組みがこれから必要だと思います。

三村 そのためには、土壌や気候などに関するデータをきちんと蓄積し、
多くの人がそのデータをよりどころとした再現性のある農法ができるようになることが必要です。
そうなると、農業の世界がさらに活性化していくと思います。

多様な業種の企業や人材が集まる場にしたい

——「イノベーター養成アカデミー」を開講する狙いや特色についてご紹介ください。

豊永 農業は仮説検証を行おうとしても成果が出るまでに時間がかかります。トマトの場合、年に数回しか検証ができません。
このようなアカデミーがあれば、1人で悩むのではなく、仲間やそのネットワークでいろいろな人たちと壁打ちしながら検討ができそうです。
さらに、AFJのネットワークもあるので、現地実証なども踏まえて、スピード感を高めることもできそうですね。

三村 まさにそこを手厚くサポートするところに主眼を置いています。
例えばPoC(概念実証)を行うために、実証フィールドを貸してくださるような農家を探すのは大変だと思うのですが、
そこはまさにAFJのネットワークを通じて、それを実現できるようなマッチングも支援していきます。

また、AFJには食や農業関連だけでなく、小売り、物流、機械、IT関連などさまざまな企業が会員として参加しています。
大手企業とスタートアップがコラボレーションする場にもしたいと考えています。

豊永 私たちも多くの大企業の皆さまと一緒に共同開発を行わせていただいています。
イノベーションを起こそうとしても、ゼロから考えるのはなかなか大変です。
さらに、世界の食料危機や気候変動といった大きな課題に取り組むためには、一つのイノベーションだけでは不可能です。
本アカデミーが、高い志を持つ人や企業が交流する起点の場になるといいですね。

三村 カリキュラムは平日の夜間と土日で行うので、今の仕事や事業を続けながらでも学ぶことができます。
またメンター制度を採用し、伴走型のバックアップを受けながらビジネスの起案からプラン作成までを最短1年で修了できる点も本プログラムの魅力といえます。

わたしたちの運営する「イノベーター養成アカデミー」について

従来の農業教育機関の常識であった“就農”という前提を取り払い、
アグリビジネス全般において業界全体を変革できる人材の育成を目指しています。

イノベーター養成アカデミーではイノベーションの開発手法であるリーンスタートアップの考え方を取り入れた実践や検証を軸とした学び、またAFJのネットワークと専門家による伴走支援により、仕事と両立しながら最短1年でアグリビジネスにおけるイノベーターになるために必要な力を身に付けることができるカリキュラムを提供します。
■リーンスタートアッププログラム
実際に現場で課題を見つけ、解決方法を検討し、効果検証をするといったサイクルをくり返し、実効性の高いプログラムを作ります。

■伴走制度
学⽣⼀⼈ひとりの問題意識や成長に合わせた学びを後押しする、メンターと外部コーチによる伴走支援でビジョンを実施可能なエリアまで広げます。

■AFJネットワーク
200社を超えるAFJ会員に加え、自治体、企業、農業法人など様々な分野で活躍する人々との交流やワークショップを通して様々な連携が可能となります。
会員一覧の詳細はこちら

■仕事と学びの両立
平日の夜間に講義や仮説検証プランの作成、伴走者との対話を⾏い、土日に集合研修や現場での仮説検証を社会⼈でも受講しやすいスケジュールを組んでいます。

イノベーター養成アカデミー第一期生の声

新たな価値創造に挑む学生たちが AFJを選んだ理由、今後の展望を語ります。

  • 新規事業企画で畜産業の経営改善を後押しし、畜産物の食料安全保障の確立に貢献したい。

  • 水産や農業においての研究は、現場で使えてからがスタートだと思う。